「人魚姫」というあまりに有名な作品があるおかげで、
人魚には足がないもんだとみんな思い込んでいます。
たしかに、今は足がないのですが、昔はあったのです。
おなかにあるうろこと人肌の境目から、すこし下のほうでしょうか。
大きさはあまりおおきくなく、左右に4つ足がついていました。
形は…そう、シーラカンスのひれのようなものです。
人魚たちの間では、足を魔女に取ってもらうのがはやっていました。
魚の声でしゃべります。
「コンナ足、イラナイワ。カワリニキレイナ声ヲ頂戴。」
やれやれ、時代はかわったもんだ。と、ぶつぶつ言いながらも
魔女は足を取ってやり、声を与えていました。
だんだんクチコミで、魔女のうわさが広まりました。
魔女の住む岩あなには、たくさんの人魚たちが押し寄せました。
「もう、嫌だ。とってもとってもきりがない。
大きな大きな魔法をかけて、私はもう眠りにつくことにするよ」
エイッ!と、魔女が叫ぶと、あっというまに人魚の足は消えてなくなり
声は美しくなりました。そのあと生まれたこどもの人魚も、みんなそうでした。
そして、魔女が消えてから数百年。
人魚には足がないものと定着し、昔足があったことすら忘れ去られていました。
そんなときにあの事件がおきたのです。
嵐の夜に、難破しかけた漁船。そこに乗っていた船乗りをたすけ、
人魚は船乗りのことを好きになってしまったのです。
人魚は悩みました。姿の違う自分を、あの人はどう感じるだろうか。
人間と大きく違うのは、この魚のような下半身。
毎日恋悩んだ末、何でもかなえてくれると伝説の残る魔女の岩あなを思い出しました。
人魚が岩あなの前で大声を出して歌うと、
中から魔女が出てきました。
「…人魚か。うるさいの。いったい、何をしに来た。」
「私に足をください。」
「これはこれは、奇妙な人魚もいたもんだ。変わりに、声をすべていただくがそれでもいいのか?」
「ンモウ、なんでもいいから早くしてェっ!」
魔女は、力を振り絞って人魚に足をあげました。
そしてまた、「もう起こすでないぞ」と言い残し岩あなに帰っていきました。
人魚は愕然としました。
なに、この4本のヒレは?コレが足?人間とは似ても似つかない体になっちゃったじゃないの!
(魔女さぁん!ちがうの、こんなんじゃないの!お願い、もう一度話を聞いて!)
声はでません。岩あなの扉をたたいてもびくともしません。
人魚は、岩あなの前でずっと泣き続けるのでした。
end
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