チョコレートの壁

 この国では、年に一度、チョコレートをプレゼントすることで愛を告白できる日が存在しました。
王子様などはもちろん大変な人気があるので、毎年たくさんのチョコレートをもらっているのですが、
さすがの王子様もだんだん飽きてきてしまいました。
「どれもおなじようなチョコレートだなあ。本当に私を愛している人はこの中にいるのだろうか」
山のように積まれたチョコレートの前に座って、王子様は考え込んでしまうのでした。

「王子様、チョコレートを渡したいと言う女性がきましたが」
「チョコは受け取って、丁重におかえししろ」
「それが、チョコを受け取ると女性は帰ることができないのです」

王子様のもとへ、女性が連れてこられました。
女性の肌は褐色で、つやつやと光っています。
「なんということだ」 王子は驚きを隠せません。
女性はチョコレートなのです。全身がチョコレートで出来た女性なのです。

「私は、王子様を愛する気持ちを伝えるために、神様にお願いをして、
体をチョコレートにしました。どうぞ受け取ってください」
「なんという取り返しのつかないことをしてしまったのだ、
これでは、私がチョコを受け取ることが出来ても、そなたを愛することはできないぞ」
「かまいません、あなたの気持ちが欲しいだけなのです……溶けて消えても本望でございます」

 王子様は、女性の決心と愛に大変感動しました。
「触れることも、抱きしめることも出来ない。なんと切ないのだろう、私はそなたを愛してしまったようなのに」
急いで暖房をとめさせて、寒い部屋の中で二人は愛の言葉を交わしました。
女性は確かにチョコレートで出来ており、証拠として腕をぽきっと折って見せました。
「大丈夫なのです、あとで少し炙り溶かしてからくっつければもとに戻ります」
女性は固い頬を少し動かして、笑顔を見せました。

 王子様はチョコレートの女性を愛してしまったので、結婚することに決めました。
周りは大反対です。「お世継ぎも産めない、チョコレートの姫君なんて!」
しかし王子は逆に燃え上がるのです。
「この恋の障害は、チョコレートだ。
そなたがチョコレートだというだけで、周りは反対しているが、私は違う。本当に愛しているのだ」
氷室のように冷たい王室で、王子はチョコ姫にひざまづきました。
王子とチョコ姫の間には、いつでも チョコレートの壁が立ちふさがっているのです。

 結婚式の前の夜、チョコ姫は王宮のバルコニーに立っていました。
「神様、作戦は成功しましたわ。私は王子様に愛され、王妃になることができそうです」
すると、天から声がきこえました。
「そうかい、私が言ったとおりだっただろう。恋に壁は必要なんだよ」

チョコ姫はその一生を、王子様から大事に・愛されてすごしたとのことです。

end


つづいて「チョコレート王妃」をどうぞ。

(c)AchiFujimura StudioBerry 2005/11/2