2つの石

むかしむかし、あるところに石がありました。
なんのへんてつもないただの石だったのですが、
ほかの石とおなじように心をもっていました。

そのなかの2つの石が、互いに恋をしていました。
偶然浜辺でぶつかって、とたんに2つは恋におちたのです。

彼女が波にさらわれて、離れ離れになって 泣いた夜もありました。
 でも、彼女は戻ってきました。
彼が人間に投げられて、離れ離れになって 泣いた夜もありました。
 でも、彼は戻ってきました。

不思議なめぐりあわせは、2つを引き裂いたりしません。
最後には戻ってくるのです。
まるで、この世の全ての偶然は、この2個の石のためにあるような強いちからです。

ある日、彼女がまたさらわれました。
今度は不運にも、そこを歩いていた外国人観光客の革靴の隙間に挟まったのです。
また、帰ってこれると信じていたのですが、
ようやく革靴から逃げ出した彼女が見たものは悲しい現実でした。

みたこともない石たち、触ったことのない空気。
とっても遠くにきてしまったのです。
彼女はずっと泣き続けました。彼もずっと泣いていました。

それから何万年も経った頃、地球は海だけになっていました。
陸はもろくも崩れ去って、海の底へ沈みましたが、
2つの石は偶然にも、陸の下敷きにならずに海の底を転がっていました。
彼はある程度落ち着いて、海の底で寝ていました。
今日は変わった海流が流れ込んでいるなぁ。
彼がそんなことを考えていたときです。

かちん、と何かが石にあたりました。
であったときと同じです。彼女が彼の隣に流れ着いて来たのです。
まさか、まさか!と2つは信じられないようにお互いを確かめ合いました。

「あなた、ずいぶんまるくなったのね。」
「おまえも、ずいぶんちいさくなって」
2つは偶然を喜び合いました。あとは黙っていました。

夜が深まった頃、また海流が変わりました。
彼女がふわりと浮きます。彼は彼女をじっと見つめていました。

いつでも偶然が味方してくれている。
2つが会えるのはこれが最後ではない。
同じ気持ちでした。彼女は何も言わず、小さな体で名残惜しそうに漂っていきました。
大丈夫、つぎの偶然がどれだけ先のことでも、2つの気持ちは変わらないのだから。

end