裸の王様の息子

裸の王様は、仕立て屋にだまされて「ばかには見えない服」を、
着てるつもりで歩いていました。
みんな王様が裸だと気づいていましたが、
そんなことを王様に忠告できる人はいませんでした。

ただ一人だけ、王様に向かって「王様は裸だ!」と言えたのは
ほかならない、王様の息子・王子でした。

「これ、王子!あれは、ばかには見えない服なのですよ」
女王様があわてて、王子を押さえつけました。
「そんなことないや。王様は裸だ。仕立て屋のおじさまに、だまされているんだよ」
仕立て屋は動揺したそぶりも見せず、王様に
「どうしましょう、王子にはこのすてきなお召し物が見えていないようでございます」
とみみうちをしました。

王様は少し、自分はだまされているのではないかと思いましたが
みんなの手前、王子に向かって
「王子、この服が見えないとはなんということだ。
お前はたくさん勉強をする必要があるな。」
と言いました。
王子は厳しく勉強をさせられることで有名な、全寮制の学校に入学させられました。

「王様は裸だ!はやく気がついて!王様は裸だ!」
王子はずっと叫んでいました。
見送りに来ていた仕立て屋をにらみつけて、王子は馬車で学校に連れていかれました。

それから5年。幼かった王子も、立派な少年になりました。
なんと学校を、主席で卒業するのです。
王子はたくさん勉強をして、とっても頭が良くなりました。

5年経ってもまだ裸のままの王様は、実はとてもおびえていました。
王子は、5年も厳しい学校に入れていたことをうらんではいないだろうか。

王子が、宮殿に戻ってくる日がやってきました。
王様が恐る恐る、部屋から出てきてみるとそこには大きく成長した王子がいました。

「やぁ、王様!お元気でしたか!」
笑顔の王子が、近づいてきます。
少し面食らった表情の王様は、ゆっくり王子に近づきました。
二人は久しぶりに握手をしました。王様の表情もほころびました。

「王様は、相変わらず素敵なお召し物でいらっしゃる。
本当に王として民の上に君臨するものにふさわしいお姿です。」
王子がひざまづき、王様にふかぶかとあいさつをします。
「おお、王子、この服が見えるようになったのか」
王様はにっこり笑いました。
「やだなぁ、もうあの5年前の馬鹿だった僕じゃないんですよ。
あの時は失礼を申しました。いやぁ、仕立て屋、お前は本当に腕がいいな」
王様の後ろで控えていた仕立て屋に声をかけました。
仕立て屋は「おほめにあずかって光栄でございます」と笑顔を見せました。

「そうだ、僕からも父王に服をプレゼントしよう。
なぁ仕立て屋、お前に仕立てを頼んでも良いかな?」
「光栄でございます」

王様はとってもうれしそうに、ひげをなでました。
「王子がかしこくなったぞ。頼もしいな。次の王に、ふさわしい男になった」

「ええ、王様…
僕は、もうあのころの馬鹿だった僕じゃないんですよ」
王子は仕立て屋にウィンクをして、微笑しました。


end