いぬころと一緒に

寂しく一人で暮らしている青年がいました。
彼は大学を卒業した後、フリーターと銘打って
ラクチンに暮らしていました。

ある雨のふる日、彼がバイトから帰ってくると部屋の前で
なにかが震えていました。
イヌコロ
丸いところに脚がくっついて、耳としっぽがはえている 妙な物でした。体は金属のようにキラキラ光っています。 ソレは、青年を見るとしっぽを振りました。 「ヤンヤン!」 鳴き声でしょうか。青年は少しの間ビックリして見つめていましたが、 あまりに憎めない顔(?)をしているので思わず抱き上げました。 「おうおう…むっちゃ、カワエエな、自分。 どうや、おれんち来るか?」 青年がソレに話しかけると、ソレは嬉しそうに しっぽを振りながら鳴きました。「ヤン、ヤン!」 青年は自分の部屋にソレを入れました。 「入ってこイヤァ、イヌコロ〜」 ソレの名は「イヌコロ」に決定しました。 寂しかった青年は、楽しそうに布団の上でイヌコロと戯れました。 「重いで、自分!」 仰向けになった青年が、一生懸命ちからを入れてイヌコロを高く持ち上げました。 ?
青年は、イヌコロのお腹にへんなマークがあるのに気がつきました。 何処かで見たことがあるような、無いような。 「ヤンヤン!」 イヌコロのかわいい鳴き声で、そのマークのことはすっかり忘れてしまいました。 こうして、青年と奇妙な「イヌコロ」の生活は始まりました。 初めてイヌコロが来た晩は、イヌコロを胸に抱きしめて眠りました。 イヌコロは電気を消したら、ほんのり青白く光るのです。 「キレイやな」 イヌコロがカワイイ小さな目を閉じて、静かになったので 青年も眠りました。 青年のなんの刺激も楽しみもない生活は変わりました。 イヌコロに出会ってから。イヌコロが家で待っているから。 外食も減りました。ゲームセンターに行くことも、パチンコもしなくなりました。 毎日、イヌコロと話し、イヌコロと走り回り、イヌコロと眠ったのです。 ある雨のふる日、彼はバイトから帰ってくると あまりの苦しさに玄関に倒れ込みました。胸をつかみ、顔を歪めて体を曲げます。 何とか電話をして救急車に乗り、病院へ運ばれました。 医者はあっというまにさじを投げました。 原因不明の多臓器不全です。そのことは青年自身にも告げられました。 「なにか、希望はあるかい。」医者が聞くので、 「イヌコロ…」 「イヌコロに、会わせてや」 青年は言いました。 青年の言うとおり、看護婦が病室にイヌコロを連れてきてくれました。 「イヌコロ…」 「ヤン…」イヌコロも、なんだか元気が無いようです。 「ごめんなぁ、もっとお前と遊びたかってんけど」 青年が寂しそうに言います。 「ヤン、ヤンヤン!」 「でもなぁ、俺、おもうんやぁ。この原因不明の病気になるってんで、カミサマが イヌコロ…お前をプレゼントしてくれたんやないかと」 「ほんと、楽しかったんや…」 青年は目をつぶりました。 イヌコロはもう、鳴き声も上げずに青年のとなりで しっぽを下げたままたたずんでいました。 青年の死は、新聞の片隅にすら載りませんでしたが、 かわりにこんな記事が載っていました。 「放射性物質の不法投棄相次ぐ。   一部回収が出来ていない物もあるとのこと。    このマークのついた物質には近寄らず、速やかに当局へ連絡を。」 放射性物質
end