好き、すき。

みんみん。
夏らしくセミの鳴き声が聞えてるな、なんて人間は言うけれど
必死に鳴いてるセミは夏どころじゃなかったのです。

女の子がこないかな。女の子をよんでなき続けます。
このセミは、女の子にどうしてもすきになってもらえないのです。
「そうだ、声だけじゃどこにいるかわかんないんだ!」
そうおもったセミは、市営グラウンドのフェンスにとまって泣き続けました。

セミはあっというまに、近くを飛んでいた鳥にみつかって
つかまってしまったのでした。

「やめてくれよ!僕は今、女の子が来るのを待っているんだ!」
セミがばたばたと抵抗すると、鳥は目線をながして
「失礼しちゃう。私だって女の子なのよ。」
といいました。
「そうなの?よかった!じゃぁ、僕のこと、すきかい?」
「セミは好きよ。おいしいもの」

「ねえ、あなたは女の子のセミを呼ぶことができるの?」
鳥が興味津々に聴いてくるので、ちょっと自信のあるセミは
「そうさ、もちろんだよ。僕の泣き声をきいたら、たくさんくるよ。」
と胸をはりました。

そこで、鳥はセミをじょうずに草で縛ると、少し離れたところで
女の子のセミが来るのをまちました。
やってきた女の子を、かたっぱしから食べちゃおうと思ったのです。

しかし、まてどくらせど、女の子はやってきません。
セミの鳴き声もだんだんとかすれてきました。
「もう、いいわ」
「今日はねむって、明日またないてちょうだいね。女の子をたくさん呼べるように」
セミと鳥は眠りました。

何日も、セミは鳴き続けました。
女の子は一人もきませんでした。
「おかしいなぁ。僕がこんなにないているのに」
鳥もすっかりおなかがすいてしまいました。

そしてまた数日たちました。セミが急に鳴かなくなったので、
おなかがすいてフラフラの鳥もさすがに気になってセミの元へいきました。
「どうしたの?」
「セミは、一週間しか生きていられないんだ」
「そうなの……。女の子はこなかったわね」
「最初は、むきになって呼んでいたんだけどね。来ても君がたべてしまうんだろ?
だから、途中から来ちゃだめだよって鳴いていたんだ。」

「気が付かなかった」
鳥が驚いて、目を大きくしました。
「いいんだ、僕は君みたいにかわいい女の子をよべたからね。セミじゃなくて残念だけど」

「君には悪いことをしたよね。おなかがすいちゃっただろう。」
鳥のおなかがぐぅと鳴りました。
「ぼくをたべなよ。どうせ死んでしまうから、生きてるうちに食べた方が
きっとおいしいよ」

鳥はセミを食べませんでした。
「どうしたの。早く食べないと、僕は死んでしまうよ」
鳥はうなだれて、目を閉じていました。
「早く食べないと…………」
セミは動かなくなりました。

鳥は決心したようにセミをくちばしではさみ、喉の近くまで持っていきました。
でも、食べられないのです。胸が締め付けられて、セミをそれ以上飲み込めないのです。

セミをすきなきもちが変わってしまったのです。
本当にこのセミをすきになってしまったのです。

鳥はもう一度セミをしっかりくちばしにくわえると、
一緒に空を高く高く飛んでいきました。

end