名前は、しーちゃん


 僕は部屋に一人でいるのがすきです。
ふつうにお友達もいるし、よく外でも遊ぶんだけど、
家の中で一人でいるのがすきです。

僕のほかに部屋にいるものといえば、電気スタンドだけです。
二人きりの部屋も結構楽しくて、僕は電気スタンドと仲良くなりました。

暗い部屋に僕が帰ってきても、スタンドに「ただいま」と声をかけてスイッチを押せば
パッと明るく電気をつけて返事をくれます。

「いつまでも、スタンドじゃなんだか味気ないなぁ」
「そうだ、君の名前は”しーちゃん”。よろしく、しーちゃん。」
僕はスタンドにしーちゃんと名前をつけました。

しーちゃんはいつでも明るく光って、本を読むのを助けてくれたり
僕が部屋にいるときはしーちゃんがいつもそばにいるのでした。

 昨夜から少し気がついていました。
しーちゃんの元気がないことに。
夜、僕が部屋に帰ってきてしーちゃんのスイッチを入れても
しーちゃんからの返事はありません。

暗い部屋の中でなんとか電球を取り外して、軽く振ると「シャラシャラ」と音がします。
「電球が切れたんだな。」
僕は急いでコンビニに行って電球を買ってきました。
「しーちゃん、新しい電球だぞ」
話し掛けながら電球を取り付け、そっとスイッチをいれます。

…………?
「しーちゃんじゃ、ない!」
間違いなく、電気スタンドは昨日までと同じ姿なのですが、
それはしーちゃんではありませんでした。
ハッとして切れた電球を見ます。電球をとる手が震えます。
「君が、君がしーちゃんだったんだね」
いままで気がつきませんでした。スタンドではなく、電球がしーちゃんだったのです。

「返事をしてよ、しーちゃん」
再び電球を付け替えて、電気スタンドのスイッチを入れます。
「しーちゃん」
もうしーちゃんは返事をしません。振ればシャラシャラと、何処となく寂しい音がするだけです。


僕はしーちゃんを、電気スタンドの足元に置きました。
「君の名前は、あーちゃん。よろしく、あーちゃん。」
新しい電球に変わったスタンドにそういうと、スタンドは明るく光りました。

名前を呼ばなければ別れもつらくなかったはずなのに。
でも、つらい別れだけじゃないなにかが僕と電球の間にあるのです。

end

(c)AchiFujimura StudioBerry